下手くそラブソング
2・彼はモブ専?
「なあ三井、渡辺ってさ……目が悪いのな。頭もかもな……」
「世古ちゃん……そんなに女にもてたいならバンドでもやれば?」
違う! と思わず昼食のパンを握りつぶす。
なぜそうなる。渡辺がホモで男が好きな変態でも、何でおれなんですかって話だ。
モブ専とかあんのかどうか知らんけど、誰が好き好んで一度見ただけじゃ顔覚えられないような地味な奴を好きにならなきゃいけんのだ。
万が一おれがホモなら、この、前にいる「えっとー地味系男子がモテるにはあー」と、めんどくさそうにスマホでググっている三井みたいな奴を好きになるぞ。
こいつ、性格はアレだけど顔は天使みたいに可愛いからな。
はっ、もしや、引き立て役として側に置いておこうという作戦……?
ありうる。頭が悪いと決め付けたのは誤算だった。本当の渡辺は、狡猾で腹黒く、そのモテ加減もすべて計算済み、とか思っている奴なんだ。
無造作ヘアーです、全然気合入ってませんみたいな顔して、実は一時間くらいかけてセットしてんだ、きっと。
イライラして毎日骨太牛乳を吸い上げていると、三井が廊下の方に視線を移した。
「世古ちゃーん、客だよー」
「誰?」
「そんなに対抗意識燃やす理由がわかったよ。仲良しだったんだな」
「だから誰と」
三井が指差した先には、かっこよくポーズを決めた渡辺翔平が花束を持って待っていた。
クラスの女子が「あんた何、弱みでも握ってんの?」的に、軽く引いているのがわかる。
おい! 「世古くん、交友関係広ーい」とか「なに友なんだろうー」とか、少しは心をときめかせてもいいところだろ。
「てめえごときが」って悪意のある視線を向けるのはやめてくれ。
そして渡辺! 花はいらん!
「てめっ! 勝手におれのクラス訪ねてくるんじゃ……」
「昨日の返事を、聞いてもいいか?」
「は? な、なんの?」
「オレと付き合……」
「つっ、つきつききつ、キツツキ!? ははは!」
てめえええええええ! こんな公衆の面前で!
お前に呼び出されただけで、クラスの女子全員に調子にのんなオーラ出されたおれの立場をよくわかった上で行動してくれ!
そのまま渡辺の手を掴み、ダッシュで人気のない裏庭へ誘導すると、壁へ押し付けて胸倉を掴んだ。
「世古……意外と大胆だな」
「いいか、金輪際おれに近づくな! 引き立て役はまっぴらごめんだ! というか、おれなんか引き立て役にもならないと思う! 自分で言っててアレだが」
「引き立て役?」
「とぼけんじゃねーぞ! おれに近づいてんのはそれが目的だろ! おれだってアホじゃないんだ」
「世古……」
そこで、奴の胸倉を掴んでいた手を上から鷲づかみされた。
「お前って本当可愛い」
「ふがっ!」
「伝わってなかったのは残念だが、何度でも言おう。好きだ、世古。大好きなんだ」
「頭おかしーんじゃねーのっ」
「そう思われてもいい。けど、本当なんだ」
「信じられるか!」
何この、ドラマ仕立ての修羅場。何この、彼の気持ちを信じられない彼女、みたいなポジション。ほら、やっぱ手握り締めて迫ってくるし、壁に体押し付けられたしって、ええええ?
「何してんすか!」
「信じさせてほしいんだろ?」
「そんな意味じゃないから!」
ボタンを外すな、チャックを下ろすな!
もうわかったからああああ!
「あ、いたいたー! 翔平ー!」
「お前ら……」
「今日のライブ、チケット完売だってー」
「頑張ろうねー。あれ? 世古くんじゃない?」
助かった……ってなに、この頭ピンクとか緑とかに染めてるイケメン軍団。
何でおれの名前知ってんの?
「翔ちゃん、世古くん呼んだの?」
「ああ、そうそう、それを伝えようと思っていたんだ。世古、今日、オレたちのライブがあるんだ。来てくれ」
「え、いきなりそんなこと言われても……」
「放課後、キミのクラスに皆で拉致りに来るからねー」
来ないでくれ!
そんなことになったら、クラスの女子全員に視線で殺される!
「い、行きます! 行きますから、クラスにだけは来ないで下さい!」
「じゃあ約束だぞ。はいこれチケット」
毒薬ラバーズ ~『俺は愛のポイズン、君は処方箋いらずの解毒薬』完成披露ライブ~
OPEN 17:00~ スタンディング ドリンク代 500円別
――捨てたかった。
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