下手くそラブソング
4・うお座とかに座は同じ水のエレメント
「世古、おはよう」
「ふああ、おはよ……って、何故おれの家を知っている!」
欠伸をしながら外へ出たら挨拶をされたので自然に返してしまったが、何故ここに渡辺がいる!
せっかく「今日学校で会ったら何て話しかけようかなー」なんて乙女のようにドキドキしていたのに全てが台無しだ。
「世古に『おはよう』って笑いかけられた、まる、と……」
「日記つけてんじゃねえ! もっと他に書くことあんだろ!」
「いや、これは世古日記と言って、世古に関わる全ての事柄を書き記す用の日記だ」
「燃やしたろか!」
渡辺……こいつは掴めん。クールなはずのにおれにはアホなことばかり抜かしてくるし、ただ一つわかることといえば、ちょっとおかしいということか。じろじろ。
「せ、世古……」
こうやって見てるとちょっと恥ずかしそうにしてやがるし、シャイだというのは本当なのか? いや、恥ずかしがりやならいきなりちゅーしたりしないだろ。中庭で服脱がしたりしないだろ。
「世古ってば」
でも、昨日のライン。最後急にしおらしくなっちゃって、ちょっと嬉しかったぞ。意外とマメなのかもしれない。オレ様男かと思ったけど、そのギャップに弱いっていうか。
いや、強引なところはあるけど、そもそもオレ様なのかも謎だし、ただのコミュ障かもしれないし。こいつ、何者なんだ?
……て、何でこんなに気になるの? 好きになっちゃったのか? おれってばどこまで流されれば気が済むのよ。流されちゃダメだ!
「SE・KO……」
「おれは外人じゃねえ」
「だって上の空だったから。それより、昨日はありがとう。オレ、お前にあの歌聴いて欲しかったんだ」
「あ、ああ、そんなの……別にいいよ」
「だって、お前のこと想って書いた歌詞だったから……」
「あれが!?」
わかった。こいつは変だ、変人だ。
頭のねじが一個抜けて、どっか行っちゃったから道端に生えてるキノコ突っ込んで間に合わせましたっていう感じだ。
しかし、それとこれとは話は別だ。
「渡辺、お前のことはかっこいいとは思う。歌も上手い。ライブでのお前にはしびれたぜ。しかし、おれはお前の気持ちに応えることはできない」
「ええっ! かっこいいだなんてそんな……」
「そこかよ!」
「大丈夫、世古はオレのことを絶対に好きになる」
渡辺が不敵に笑う。
何その自信。根拠はどこにある。
不覚にも、やっぱりカッコいいなんて思っちゃうじゃんか。
「うお座のオレと、かに座の世古は、同じ水のエレメントなので相性抜群だ」
「根拠そんだけ!?」
それに、疑問点がある。おれのどこがそんなにいいのかだ。ここ、重要よ。
仮にもし、おれが犯罪を起こし逃亡して、犯人の特徴はと聞かれても特にありませんでしたと言われる可能性の高いこのおれを。隠された魅力があるというのなら、是非それを伸ばしたい。そしてモテモテになるのだ。
「さあ、聞かせてくれ!」
「世古、男は顔じゃない。心さ」
「全然嬉しくねえ」
「オレがお前を好きになった理由……それは……」
「それはっ?」
「はは、世古はそんなこと考えなくていいんだよ。きっかけはともかく、今はそんなの関係なしに好きなんだから」
気になる気になる気になる気になる。
生まれてこのかた告白なんてされたことねえんだから、気になるに決まってんだろ。
話したこともない奴にいつの間にか好かれるのってすげえ不思議で、しかもそれが男でイケメンで変な奴だから知りたくもなるだろ。いつ、おれのこと知ったのかとか、どんなとこに惹かれたのかとか、どんくらいおれのこと好きなのか、とか。
「世古、すねないで」
「うるさいっ! 話しかけるな」
「ほんと可愛いなって思うの、そういうとこだけどな」
「う、嬉しくないからな……」
男に可愛いとか恥ずかしいだろ。言われたこっちが恥ずかしいんだから。でも、子猫を可愛いと思う奴もいれば、イグアナを可愛いと思う奴もいるんだからな。こいつの可愛いは、ちゃんとした感覚なのか気になるのは当たり前だぞ。どきどき。
「はっ、世古!」
「ど、どうした」
「降りてきた……『かに座のきみと海でランデブー ~裸になってバタフライ~』タイトルはこれで決まりだ!」
「響きかっこいいけど、実は全然かっこよくないぞ」
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