【下手くそラブソング】5・ジャイアンリサイタル?

下手くそラブソング




下手くそラブソング

5・ジャイアンリサイタル?

『かに座のきみと海でランデブー ~裸になってバタフライ~ 完成披露ライヴ ドリンク代500円』

 

「三日後のライヴのチケットできたぜ!」

「翔平、最近ノリノリじゃん」

「恋のパワーってすごいね」

 

 歌詞がおかしくても、渡辺の声は好きだから行く。ライブはもともと好きだ。音楽自体大好きなのだ。

 あんなふうに歌えたらなあ。自信たっぷりで歓声受けて、うらやましい。

 言っておくが、おれはかなりの音痴だ。自分でも自覚するほどなのだから相当なものだろう。しかし、歌を歌うのは好きだ。だからいつも一人で歌う。家でも学校でも道端でも、人がいなければいつでも歌っている。

 それでいい。カラオケに行けなくたっていい。一人で歌うのは淋しいけど、楽しい。でも、皆で歌ったらもっと楽しいもんなんだろうか。

 ライヴのチケットを見つめ、聞いてみた。

 

「渡辺は、昔からそんなに歌が上手かったのか?」

「え? ああ……」

「いいなあ。おれ、誰にも言ってないけど、すげえ歌が下手なんだ。そんな理由もあって、歌うのはとっても好きなんだけどカラオケに誘われても行けなくてさ。だから渡辺みたいに歌えれば、すげえ気持ちいいだろうなって思った。バンドとかもやってみたい。でもおれ、音感全然ないし、ギターもドラムもできないし、歌も下手で……」

「カラオケ、行きたいか?」

「そ、そりゃ行ってみたいよ。でも、恥ずかしくて人前で歌なんか歌えない」

「行こう」

「え、やだよ」

「行くぜ」

 

 嫌だっつってんのに、強引に腕をつかまれて引きずられてゆく。しかも今昼休みだから、まだ五限があるんですけど……なんて、聞いちゃいねえ。

 サクサク歩いてピッグエコーにやってきた。カラオケBOXなんて小学校の卒業式のあと、みんなで行って以来だ。

 

「世古、何歌う?」

「だから、嫌だって……」

「大丈夫だから。ロミオレメンの『ぼた雪』、歌えるか?」

 

 何が大丈夫だ。お前だっておれの歌聴いたらキモいとかうざいとか消えろとか言うんだろ。小学校の校歌を歌ったときに言われて以来軽くトラウマなんだからな。

 この年になっても、そんなみじめな思いするの絶対嫌だ。

 

「じゃあ、オレとなら歌ってくれるか? 一緒に歌おう」

「お前とおれとじゃレベルが違うだろ」

「世古は二番な」

「聞け!」

 

 しっとりとしたギターのイントロが鳴り、メロディに近づく。まあ、渡辺の声は好きだから聞くけどさ。って、あれ……?

 

「ボエ~♪」

 

 ??? この雑音何だろう。機械壊れてるのかな。マイクがおかしいのかな。何この異音。ジャイアンリサイタル? 怪物の鳴き声みたいな。何か生まれる、みたいな。

 

「ボエエエエエ~♪」

 

 わかった。渡辺がおれに遠慮して、わざとふざけて歌ってるんだ。始めからおれを笑いものにするつもりだったんだな、こいつ! くそ、そこまで落ちぶれちゃいねえよ!

 

「渡辺! ふざけてないでちゃんと歌えよ!」

「お前にはわからないのか……これがオレの限界だ」

「ばかにすんじゃねえよっ」

「ごめん、オレ、世古が思うような奴じゃねえんだよ」

 

 渡辺が演奏中止のキーを押して、急に静かになる。

 至近距離から、射すように真剣な眼差しを向けられる。

 おれが思うような奴じゃないって、何だ?

 

「オレも音痴なんだ。もともとあいつらにヴォーカルいないからって頼まれて、一回だけの約束でライブしたらそれが評判良くて、今もずるずる続いてしまってて……。バンドはエアヴォーカルで、いつもテープ流してたんだ」

「えっ! それってつまり口パクだったってこと!?」

「うん。もともとコンプレックスなわけ。人前で歌うのなんか絶対無理」

 

 あれが口パク……。だまされてた。詐欺だ。かっこいい、と思ったのは嘘だったんだ。

 怒りたいのに怒る気になれない。音痴の気持ちがわかるからか、渡辺が傷ついたように瞳を伏せるからか。

 

「でも、オレより下手な奴を初めて見つけた。嬉しくて友達になりたかった。そんで、一緒にカラオケに行って点数バトルをして勝ってみたかった」

「お前、性格悪いな」

「帰り道、一人で歌ってる世古を見て、へったくそで。毎日毎日、それでもお前は一人で歌ってた。でも、ものすごい楽しそうに歌ってて、下手なのにもっと聞いてたいって思う歌だった。だからオレは少しだけ自信ついたんだ。どんなにヘタでも、耳が腐りそうでも、楽しい気持ちは伝わるんだって」

「おい、言い過ぎだろ……」

「そしたら、いつの間にかお前の姿を探してた。いつでも」

 

 渡辺が立ち上がって、おれの隣のソファに座った。強く抱きしめられて、自ら決心するようにおれに伝える。

 

「だからオレは今度のライブ、歌おうと思う。ほんとの声で。世古の歌をオレが好きだと思うように、オレの歌もお前にささげたいんだ」

 

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