【下手くそラブソング】7・ありえないことはありえない

下手くそラブソング




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7・ありえないことはありえない

「以上で、サプライズ演出終了ー! どうだい、みんな、びっくりしたかな?」

「えっ?」

「リーダー?」

「てめえら、ぶち壊すつもりなら慰謝料払ってもらうぞ。それができないんなら裏で頭冷やしてこい (小声)! はーい、余興に、このチャップリンのショートコント、『思春期』をお送りしようかと思いまーす!」

 

 渡辺と二人、リーダーに背中を押され、舞台袖の脇に追いやられる。それよりこのバカ、あともうちょっとで危ないとこだったぞ。恥ずかしかったじゃねえかこのやろ! てかショートコントが気になるんですけど。

 

「世古……さっきのお前、しびれたぜ……」

「お前は、せっかくかっこいいのに、どうしてぶち壊すようなことするんだよっ!」

「え」

「音痴なのわかってんのにわざわざ暴露すんなよ! かっこ悪い!」

「好きな奴のために頑張ることはかっこ悪くなんかないよ。誰だって好きになってもらうために必死になるのは普通だろ」

 

 だからこういう歯の浮くようなセリフ、真面目な顔で言うから恥ずかしいんだよ! こんなこと言われてどう返せっていうんだ。はいそうですねなんて言えるか! 恥ずかしい!

 

「だからファンに嫌われても、世古がわかってくれるならそれでいいと思ったんだ」

「ばっ……よくそんな言葉、照れもなくっ!」

「照れるけど、世古のために頑張ってんだよ」

 

 悶死もんし

 ちょっとあんま顔近づけないでくれますか、空気が薄いから呼吸困難、いやこれは密着することにより二酸化炭素が増加しているだけでして、恋のドキドキで胸がはちきれそうで苦しいからなんてありえないことはありえない……。

 

「世古」

「ふあっ」

「カラオケでも行こうか」

 

 

 ホゲエ~♪ ボエエ~♪

 

「ちょっと渡辺! よくその歌唱力で披露するとか言えたよなあ! これ聞かせてたら鼓膜が爆死するぜ?」

「はっはっはっ、世古はユーモアのセンスも冴えてるから好きだぞ。これでも三日練習したんだからそんなはずは……」

「それで学校休んでたんだな?」

 

 タララララララ……

 一点!

 

「ほら! 百点満点中一点だなんて見たことないよ! おれでも十点はいくよ!」

「ふ……ミラクルに遭遇そうぐうする男と呼んでくれ」

「お前、こりゃ本当に死ぬ気で練習するしかないぞ」

「世古となら一緒に楽しく練習できる気がするな。一緒に練習してくれないか?」

「べ、別にそれくらいいいけど……」

「じゃあ、もしオレが世古と勝負して勝ったら付き合ってくれる?」

「勝負? 何の……」

「カラオケ」

 

 このジャイアンがおれより上手くなるはずがない。渡辺と練習するときおれだって練習するし。

 

「別にいいよ」

「えっ世古、これ脈アリってことでいいんだよな?」

「渡辺、お前は知れば知るほど残念なイケメンだな」

 

 恋は人をかっこ悪くしてしまう、そんなことどこかで聞いたっけ。

 この渡辺を、おれだからこんなにしてしまうのかな、なんて考えたら少しいい気分になった。

 そんなおれの笑顔を何を勘違いしたのか、渡辺も同じように微笑んだ。そして……。

 

「ってお前! なにどさくさに紛れて押し倒してんだよ!」

「前借りさせてくれ」

「何のだよ、てかまさかお前勝つ気でいんのか! 従業員さーん、こいつ出禁にしてくださーい!」

 

 この後、渡辺がいないステージにはファンの暴動が起こっていたという。

 そして余談だが、意外とチャップリンのショートコントは好評だったらしい。

 

 




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