【下手くそラブソング】8・ぼた雪

下手くそラブソング




下手くそラブソング

8・ぼた雪

今日も放課後渡辺とカラオケタイムだ。やっぱ歌うのって楽しいな。おれより下手くそがいるから気兼ねなく歌えるしっ。ふんふーん……♪

あっ、ついつい鼻歌が出てしまった。後ろで「今壊れたスピーカー音聞こえなかった?」という会話がなされている。壊れたスピーカーなんて周りにないのにおかしいな。

ノリノリで鞄の中に教科書をしまっていると三井が「世古ちゃーん、帰ろー」とやってきた。

 

「それにしても世古ちゃんさあ、最近付き合い悪いよね……」

「そうか?」

「渡辺とカラオケ行くなんてうらやましいなあ。今度俺も混ぜてよ」

 

悩ましげにそんなこというが、三井はおれたちがジャイアンリサイタルを開いていることを知らないのだ。うらやましいのはお前のその能天気な頭の中だ。

 

「だっだめだよ! 無理! 絶対無理!」

「ちっ、知ってるよ。渡辺と付き合ってんだろ? 邪魔なんかしませんよ」

「付き合うわけないだろうが! あいつは男だぞ? それにお前みたいに可愛いならわかるけどおれ、地味だし」

「まあね。でも世古ちゃんは地味なりに整ってるよ。そうじゃなきゃ俺友達にならないもん。自分より可愛い子は嫌いだけど不細工すぎるのもいやっ」

「それは褒め言葉か? 腹の黒さを露呈しているだけか?」

「世古ちゃんは自分のこと卑下しすぎだよ。あとクラスの女子の反応気にしすぎ。誰も見てないって、世古ちゃんのことなんか」

「それは励ましか? さげすみか?」

 

昔、歌が下手だのきもいだの消えろだの言われたことがトラウマで、自分に自信が持てなくなったことは認めよう。それからは目立たないように地味に生きてきましたとも。何か陰口叩かれてないか周りの反応がとても気になりますとも。おまけに毎日妹と弟にきもいうざいと罵られ、何だかだんだんそんな存在のように思えてくるだろが!

 

「だからっ、世古ちゃんはもっと自信持てばいいと思うよ! あんなすごい奴に好かれてるんだからさ」

「うん……」

 

渡辺に好かれてるなら自信を持てだって? こいつ、思ったほどすごくないぞ。だって歌ヘタだし、へたれだし、なんだかかっこ悪いし……でも、どこか憎めない。知れば知るほどいい奴なんだって思えてきたし、イケメンとしては残念だけど、友達としては、好き、かも。

学校の近くにあるカラオケBOXの前に背の高いキンパツが見える。渡辺はいつも早く来ておれを待ってる。

 

「ふ……世古、来てくれたんだな……」

「だから、そうやってかっこつけるのやめろって。お前がへたれなのばれてるから」

「ふふ……ばれていても、癖になってしまってやめられないのさ」

「早く歌おうぜー。おれねープンプンオブチキンの『人間観察』覚えてきたんだー」

「世古、その歌はハイレベルなやつだな。なかなかやるじゃないか」

 

部屋に入り、口慣らしに二、三曲歌う。そしてプンプンオブチキンだ。

これ大好きな曲だから、一度大音量で歌ってみたかったんだよねっ。

ボエ~♪

 

「世古、なかなか上手いぞ。これは、高得点いくんじゃないか?」

「まじでそう思う? 好きな曲だから覚えてたしね、昔から歌ってたんだよ」

 

タラララララ……

四十一点!

 

「今までの中で最高得点じゃないか?」

「わーやったー! 嬉しいー! こんなの初めてだよー」

「世古は本当に歌うのが好きなんだな、そう伝わってきた。だからオレの中では満点だ」

 

そんなくさいセリフ言いながら渡辺が物憂げな顔で微笑んだので赤面する。ガキみたいにはしゃいでしまった自分が恥ずかしくて、机の上のコーラを一気に流し込んだ。炭酸が強くてひゃっくりが一つ飛び出す。

 

「……勝負、していいか?」

「お、おいおい、四十一点だぞ? やめた方がいいんじゃないの? 勝てる自信があるのか?」

「勝てる自信はないけど、好きすぎて辛くなってきた」

 

なんだその理由はっ、あほなこと言うなっ、と突っ込もうとしたら渡辺はいたって真面目な顔で辛そうに続けた。

 

「やっぱりオレは友達じゃだめだ。それなら、万が一でもいいから勝負して勝って、お前と付き合いたい。安心しろ、負けたら二度と関わらないから。オレは約束は守る男だぜ」

「二度と関わらないって……そ、そこまでしなくても……」

「お前はいいかもしれないけど、オレは限界だ。このままでは無理やりにでも押し倒してしまうかもしれない。触れたいんだ、世古」

 

前科があるだけに冗談じゃないんだろう。でも、せっかくできたカラ友を失くしてしまわなくてはいけないの? 渡辺はいい奴だけどおれ男ですし、まだ童貞ですし、童貞失う前にバックバージンは失いたくないんです。

 

「ここは、『押し倒してもいいから、お前との友情を大事にしたい! むしろ、付き合おう!』っていう展開を期待したんだがな……」

「そんなご都合な世の中なら、みんな幸せに暮らしてるわ」

「世古は悲しいほど現実主義者だな」

 

テレビの画面に曲名が入る。これが渡辺の勝負曲だ。

 

「ロミオレメンの『ぼたもち』か」

「『ぼた雪』だぞ、世古」

「おれが一番好きな曲、これ。高音が難しいけど」

「だから歌いたいんだ。上手く歌える曲はこれよりもあるかもしれないけど、お前に歌いたいから……」

 

真剣な横顔。手の汗を拭うしぐさ。深い深い深呼吸。

相当緊張しているのが伝わる。おれもいつの間にか固く拳を握り締めていた。

 

ぼだーゆきーボエ~♪

十二点だった。

 

 

「ねえ世古ちゃん、今日渡辺見ないね。いつもは昼休み始まったらお花持って待機してるのに」

「ああ……おれたち、二度と関わらないって約束したから」

「えっ何で!?」

「そもそも渡辺と付き合うとか、ねえし……」

「世古ちゃんも楽しそうだったけどね。でもそっか、なんか淋しいね」

 

おれだって淋しい。

しかし、これがあいつなりのけじめなんだろう。ならばおれも守らなくてはいけない。

何なんだよ、自分勝手な奴。自分から接近しておいて離れるときも自分から。おれの気持ちなんかお構いなしじゃねえか。

 

「ねえねえ、今日、渡辺君に手紙渡したら、受け取ってくれたんだあ~」

「へえ~珍しいね、いつもは『好きな人がいるから』って断られてたのに」

 

クラスの女子がキャッキャはしゃいでいる。

そうか……渡辺、おれのことなんか忘れて新しい恋人探しか。しょうがねえよな、あいつはヤりたい盛りだろうし、来るもの拒まなかったら今日にでも恋人できるぞ。

……あいつ最低。そんな奴だった? 一途で、自分の欠点さらけ出してまでおれに気持ち伝えようとしてくれたのは嘘だったのか? ヤれりゃ誰でもいいのか? そんなら何で男でめんどくさいおれなんかに告白してきたんだよ。あんなにかっこ悪くなるまでおれに近づいてきたんだよ。

本当は、あいつが四十一点以上なんて出せるはずないってわかってた。わかってたからやめさせようとした。今じゃなくていいじゃんって。

……自分勝手なの、おれか。

 

一人でカラオケに来てみた。四畳ほどの個室は二人だと狭いと思っていたけど一人だとちょうどよかった。狭い狭いカラオケBOXの中で、渡辺が限界だと言ったのを思い出した。

何故かわからないけど泣きたくなる。でも気を取り直して、履歴から何か入れようとボタンを進めた。

 

ロミオレメン/ぼた雪

 

渡辺が歌った曲は切ないバラードで、サビの高音が大変な曲だ。一番最初に歌ってくれたときはジャイアンリサイタルと見紛うほどの出来栄えだった。自分でもヘタだってわかってた。上手く歌えないって。

 

『上手く歌える曲はこれよりもあるかもしれないけど、お前に歌いたいから……』

 

真剣な横顔。

手の汗を拭うしぐさ。

深い深い深呼吸。

それだけで、満点だったのに。

 

 




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