【おれとお前のラブゲーム】
2・デーブスペクター並のアメリカンジョークじゃ、笑うどころか怒りがこみ上げてくるぜ
その日の帰り道――
【状況】
塀 おれ――3M――ケンジ 塀
「お前、真面目に答えろ! 本気なのかよ」
「何が?」
「何がって、おれに言ったこと!」
「ああ、本当だよ。お前の側にいると勃起して仕方ない」
ぶへえええええ!
なーにが勃起だ。ヤンキーはな、純情なんだ。河原で拾ったエロ本に心ときめかせて妄想膨らませている、ピュアな人間であるべきなんじゃ。
ケンジは中学の頃からもてていた。男にも女にも先生からももてていた。そしてそれを片っ端から受け入れて、こんなふしだらな人間に育ってしまったのだ。
当然いらついたおれが、不意打ちをねらって頬骨を折る重傷を負わせたとき、ケンジのキズが直るまでクラスの女子全員から無視されたという悲しいエピソードも残っている。
「おれはな、下ネタが嫌いなんだよ! 近よんな!」
「ああ、そういうところも大好きだ。押し倒して、ひん剥いて、縛って、泣き喚くお前の顔見ながら、ずっこんずっこん突っ込」
「だまれー!」
デーブスペクター並のアメリカンジョークじゃ、笑うどころか怒りがこみ上げてくるぜ!
「人生で一番欲情した瞬間は――」
「聞いてねえから」
「お前がケンカしてぼろぼろになったあと、屈辱の涙に濡れながら、傷ついた体を引きずって帰路についた光景だ」
「感動的なシーンをそんな目で見るな」
「ボタンとか、ところどころ千切れてるのがまたそそるよな」
「おい、口チャックしろ」
とりあえず、今のおれに言えることは、こんな変態なんかと付き合えますかってことだ。
まあ、男子校ということで、男同士のお付き合いができるということは知っている。トイレの個室、放課後の体育倉庫、近くの河原らへんで、そんなような奴らの出現率が高くなるのも知っている。でも、具体的にどういうことをしているのかは知らない。正確にいうと知りたくない。
「俺はさ、あゆむの味方だよ。まったく、なんでこんなアホなことに……」
放課後、ケンジから逃れててっぺいに相談する。こいつはおれらの中じゃ一番まともだし、歯に絹着せない物言いで率直な意見を言ってくれるので、問題があるごとに頼りにしている。
「あゆむさ、誰でもいいから彼女作っちゃえば? そしたらケンジも冷めると思うし」
「彼女……」
「中学の時付き合ってたきりだろ?」
「や、ヤンキーはな、女よりケンカが好きであるべきなんだよっ」
「じゃあ、この機会に誰かと付き合いなよ。俺の彼女の友達紹介してやるから」
「ほ、ほんと?」
彼女が欲しくないといえば嘘だ。純情ではあるが、えろいのが嫌いなわけではない。
話がついて、てっぺいとしばらくマットに寝そべっていたら、扉を開ける音が聞こえた。
「ここじゃ、だめ? 誰もいないよ」
「いいぜ。来いよ」
「あっ、ちょっと待って……」
「もうこんなにしてるぜ」
「あっ」
なななななんですか!
おれが起きあがるとてっぺいが白けた目で耳打ちする。
「この声、たぶん5組の笠井と7組の遠藤じゃね? こいつらしょっちゅう学校でヤってるって噂だし」
「ヤ……?」
あ、ここ、体育倉庫だったっけ……。
おれは近くのてっぺいの説明よりも、遠い奴らの息づかいの方が鮮明だった。
「ああんっ」
スパンスパン、というリズミカルな音と共に聞こえる喘ぎ声。といえば、やっぱり、男同士で、あんなことや、そんなことを、しているのだろうか。
「あゆむ、見てみなよ」
てっぺいが手を招いている。おれはカチンコチンになりながら、少しずつ距離を縮めて、そして――
「いやあーんっ!」
その光景を、目撃した。
「あ、あゆむ、大丈夫?」
「……」
「おーい、あゆむー」
なになに、突っ込まれるとあんなに女みてーにあんあん喘ぐことになるわけ? じゃあ、もし、もしもだ。おれがケンジと万が一、いや、億が一そういうことになってしまったら、おれが多分突っ込まれてしまうだろう。そんなとき、このおれがあんな風にケンジにしがみ付いて、「もういやあ」だの「ああん、もっとお」だの理性吹っ飛びながら叫ぶことになるんかい?
このおれが? 硬派でヤンキー街道まっしぐら、惚れた女は火傷するぜ、の、このおれがっ?
「てっぺい、すぐに、今日にでも彼女紹介してくれ! たのむ! この通り!」
「あゆむ……何泣いてんの……」