ネバーギブアップ!

短編小説




 

ヤマのことが好きなんだと気付いたのは、つい最近。
それ以来、ヤマが女としゃべってたりする場面を見ると、なんだかイライラしてくる。
なんでぇ、あんなブス、とか思ってたりもする。おれの方が可愛いのに、とかさ……。

 

そして、今日もおれは不機嫌だ。

 

「あれ、ヤマ、今日バイト?」
「え、うん。ど、どうしたの? てか、大学で見たことあるけど、誰だっけ……いきなり俺ん家来て」
「……ヤマ、いつも水曜はバイトなかったじゃん」
「ん? いつもって、何で知ってんの……? 増やしたんだよ……だって夏休みじゃん」
「あ、ああ、確かに……」
「それにしても何か用? 俺、今からバイト行かなきゃいけないんだけど、行ってもいいかな」
「え、いや、別にたいしたことじゃないから……うん……」

 

全てが空回りで切なくなる。
こうしたさり気なさを装うのも、精一杯の笑顔も。
ガラじゃないってのは分かってる。

 

 

「へこむ……」
「どうしたんだよ、無駄にポジティブシンキングのトモがらしくねえな」
「なあ、おれの魅力は宇宙の次元の果てに消え失せてしまったのかな……」
「はあ? ほんとにどうしたの?」

 

アラシが呆れたような声を出す。
バイのアラシはおれの元彼。おれのことなら何でも知ってる。だから時々、こうして誰にも言えない悩みを相談したりしてる。相談というか、ただおれが一方的にわめいてじたばたしている。

 

「節操のないお前には理解できない悩みだよ……おれ今絶賛片思い中なの」
「何度も聞いたぜ。それでお前オレと別れたんだろが」
「一途でしょ」
「一途も何も、オレの気持ちはどうしてくれんだよ」
「だってお前、おれの他にもたくさん囲ってたじゃん。お前との明るい未来はなかったね」
「言ってくれるな。お前こそ他に男いただろ」
「いねーよ。なんでそう疑うかな。疑い深い男は嫌われるぞー」

 

「おれはヤマひ・と・す・じ」と茶化して、思いっきり可愛らしい表情を作ってやった。案の定アラシはおれの可愛らしさに見とれている。なんてアホなんだ。
こいつなら簡単に落とせるのに、なんでヤマはおれの毒牙に引っかからないんだよ。まあ、そんなストイックなとこが好きでもあるんだけどね。

 

「なあ、より、戻す気ねえの? お前ならいつでも大歓迎だぜ」
「はあ、その言葉をヤマから聞きたいんだよ、おれは」
「どこがいいの、あんな奴。不細工だし、何のとりえもない地味なやつじゃん」
「知らねーよ。とにかくおれにとっては特別なんだよ。気になって気になって仕方ないんだよ。なんつーか、ヤマの世界では全てがイノセントで、じめじめしたこと何もない、みたいな……」
「まあ、お前の言ってることは何となくわかったけど、あいつ確実にセックスはヘタだな。つうか童貞?」
「おれは、ヤマにそんなこと求めてない。だってヤマはノンケだし」
「ビッチなお前が言うセリフかよ?」
「ビッチじゃないもん。ヤマ一筋だもん!」

 

アラシの手なんて借りんでも、くどき落としてみせるっつうの。

 

「はろーヤマー。おっつっかっれー!」

 

疲れているヤマに可愛さ満点の笑顔と元気一杯のエールで、幸せを与えるのだ。
そしておれのありがたさに気づくのだよ。疲れてるときには、おれの笑顔が一番ってね。
どんな滋養剤より、ユンケルゴールドより、おれの存在がナンバーワンさ。

 

「……あ、ええっ? おおおお疲れ」

 

ヤマは店の前で待ち構えていたおれにドン引きしている。
そんなに分かりやすくうろたえなくてもいいじゃないかよ。ほんっと釣れないね。そこがヤマのいいところなんだけどね。

 

「どうだったー? バイトっ」
「まあ、いつも通り……」
「これから飲みいかない? 腹減ってんだろ?」

 

ふふ、ヤマのバイト先のコンビニではまかないは出ない。そして、夜の休憩は10分だけなので、ちゃんとしたメシを食う時間はない。ということは、今は腹が減っている。おれってあったまいいー!

 

「あ、悪いけど、俺明日早いからさ。用があるときはメールかなんか送ってくれればいいから。えと、はい、これ俺のアドレス。わざわざ来てもらって悪いんだけどさ」
「!」

 

わーい! ヤマからメールアドレスもらっちゃったー!
でもさ、あからさまに迷惑そうな顔しないでくれ。まあ、おれがヤマの立場だったらド迷惑だとは思うけれども。

そりゃ大学の経済マーケティングの講義で数回一緒になった程度の輩に、家に押しかけられたあげくバイト終わるまで待たれていちゃ、おれなら立派なストーカーとして警察に通報するね。でも、ヤマはそんなことしない。しないから好き。大好き。きみがおれを拒めば拒むほど、おれの思いは募ってゆくばかりさ。

 

 

「アラシ! おれの魅力はブラックホールの渦に巻き込まれて、もう二度と光の中に戻れないのだろうか」
「何そのたとえ。それにしても最近、セックスしてないから肌荒れがひどいぞ」
「あ、荒れてねえよ!」
「そんなツラじゃ、ヤマなんて落とせないぞ。ヤるか」
「ヤりませーん」

 

はあ、お肌がカサカサになってしまっても、おれはヤマのこと好きなんだからねっ。

 

 

「いらっしゃいませえー」
「……」

ヤマがはんにゃのお面を被ったようなツラをしている。
まあ、無理もない。ついにおれはヤマのコンビニでバイトを始めた。
そして、シフトに入れる日をことごとくヤマの入れる日、入れる時間にぶつけ、研修を一緒にさせてもらうという荒業に出たのだから。おれだったら警察にストーカー容疑及び、業務営業妨害容疑で届け出出すね。でも、ヤマはそんなことしない。しないから好(以下略)

 

「お前、何か俺に恨みでもあんの?」
「え? 何言ってんのー。偶然だよ。ぐ・う・ぜ・んっ」

 

恨みって、何でそんなにネガティブ思考なわけ? 好意を抱かれてるとかいう選択肢はないわけ? それとも遠まわしに拒否ってるわけ?

 

「ヤマ、働くって素晴らしいなっ」
「……」
「な、明日休みじゃん? どっか行かないっ?」
「……あのさ、俺、お前の名前すらうろ覚えなんですけど、何でそんなに俺に絡むわけ? 俺、お前に恨み、もしくは親しみ持たれるようなこと、何かした?」

 

死んだ魚のような目で見られたって平気さ。それに、その言葉を解釈すればおれに自己紹介をしてもらいたいってことだろ? もう、ツンデレなんだから。

 

「おれの名前は漣 友哉(サザナミ トモヤ)。トモって呼んでくれ! とももでもいーよ!」

 

おれが差し出した手のひらには触れずに「あ、はい」と返事をしたあと、微かにため息が聞こえた。おれ興味ありませんオーラ出すのやめろ。会話をどう繋げようか悩むな。密かにへこむぞ、コラ。

 

「んで、えーと、明日お前もないの、バイト」
「うん! 偶然にも! だから、釣りでもいこーよ、ね?」
「釣りっ?」

 

ふふふ。ヤマの趣味はサーチ済みさ。案の定食いついている。おれはその顔が見たかったのだよ。

 

「いや、俺釣りとか興味ないし……一人で行けば?」
「!」

 

嘘つかれて拒絶!
さすがにショックだぜ。

 

 

「なあアラシ、おれの魅力はスターバースト銀河のダークマターと化して、ヤマには未知の物質あるいは無反応物質として処理されているのだろうか」
「だから、たとえが分かりづらいんだよ」
「おれ、今回は無理かも」
「まあ、あいつみたいな地味君は、お前みたいに顔が良くて何でもできちゃう奴なんて妬みの対象にしかなんねえんだろ。そういう陰気な奴なんだよ。だからオレと……」
「なるほど、すごく謙虚なわけか」
「住む世界が違うんだよ。肉食動物と草食動物くらい違うの。諦めろ」
「ネバー・ギブアップ!」
「お前、本当可愛いな」

 

 

いいのいいの! 気持ちは言わなきゃ伝わらない!
言っちまえ。

 

「……え?」
「だから、好きなんだってば。おれ、ゲイなの」
「おお、俺、そういう趣味ないから。それに俺、彼女いるし。あ、ちょうど電話だ。じゃ、また」

 

そそくさと逃げるようにして取り残されてしまった。
それに、彼女いたの?

 

「もしもし、え、うん。大丈夫。いや、今さ、ちょっと頭おかしい奴に呼び止められてさ」

 

それっておれのこと?

 

「うん。それが、男が好きっていう奴でさー、俺、目つけられてたみたいでさ、マジ迷惑っつうかキモイ。もう二度と話しかけてこないでって感じ」

 

あ、迷惑でキモイわけね。わかった。
話しかけられたくないのね。
わかったよ、わかった……。

 

「オラあ!」
「うわあ、な、なんだお前!」
「え? あ、アラシ?」

 

いきなり、アラシがヤマの胸倉を掴んで殴りかかろうとしている。
どうしてこんなことになってるの?

 

「ひぃっ、何なんだよ、お前!」
「トモのどこが頭おかしいんだよ? ちゃんとお前と同じ様にバイトしてるし授業受けてるだろうが! どこがキモイんだよ? そんな偏見持ってるお前が、逆にキモイぜ!」
「わっ、分かりましたからっ! 殴らないで下さい! 暴力反対!」
「てめえなんざ、殴る価値もねえよ!」

 

アラシが手を離すと、一目散に逃げて行った。
ああ、ヤマ、さよなら。
おれの恋、さよなら。

 

「アラシ、おれ、大丈夫だから、そんなことしてくれなくていいよ」
「オレが我慢できねえんだよ! お前のこと悪く言われんのは!」
「そんなにおれのこと好きでもないくせに」

 

ヤマの言葉のせいか、それとも別の何かのせいかわからないけど、次から次へと涙が零れてはまた生まれた。

想いを涙に乗せて、流して、唇に触れてしょっぱいよ。

 

「あのな、何度言わせる気だよ。聞きてえなら言ってやっけどな、オレ、お前のことめちゃくちゃ好きだよ? ダサすぎて、カッコつけてそういうの正面から見せれなかったけど、本当にオレ、お前のことすげえめちゃくちゃ愛してんだけど」
「ほんと?」
「お前は、絶対報われない相手を選んで、誰かのこと一途に想いたかっただけなんだよ。自分に酔いたかっただけなんだよ。だからこれからはオレにしとけ。遊びの恋はもう終いだ」

 

そうして、アラシはおれを引き寄せて情熱的なキスをした。
体がフワフワ浮くような恍惚感に浸りながら、おれたちはそのあと早足でアラシのアパートに行って久しぶりに体を重ねた。

服を脱ぐのももどかしくて、早いBPMの呼吸だけが空間を満たし、お互いの全力の愛をぶつけ合うような、セックスというより試合のような……そんなセックス。でも最高にエロい、愛の言葉も何もない色気のないセックス。

失恋したあとのセックスってこんなに燃えるもんなんだな。
おれはガラにもなく、何度も何度も求めては達して、ただアラシの名前を叫んだ。

 

――数日後。

 

「アラシ、おれの魅力はしし座流星群とともに地上の塵となって、大気に溶けてしまったのだろうか……四十歳公務員、バツイチ子持ちの攻略方法、知ってるか?」
「またそんな面倒くさい相手……トモ、お前いい加減にしろよ……」

 

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【おわり】

 




 

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